小説 RYDIEN(ライデイン) プロローグ5

 5:襲撃

 

 今までに聞いた事の無いとんでもない破壊音と爆風、粉塵が滅茶苦茶になって襲ってきた。

 べチャリ

 何か液体のようなものが顔に飛んできた。手でぬぐってみると、

 なんだこれ、赤い。

 ……血だ!

「里利! 里利ぃ!」

 里利が、体の半分をごっそり失っていた。見開いた目は瞳孔が完全に開いている。

 即死。見ただけで分かった。

 正孝が血だらけになった里利の半身を抱き上げて叫んでいる。

 はっとなって突然現れた巨大な獣を見る。そいつは今度は大口を開けて――

「正孝! にげ――」

 破壊音、激しい衝撃。

 教室から宙に投げ出され、校庭の地面に叩きつけられた。

 気を失わなかったのが幸か不幸か、校舎の二階から落ちて猛烈に体中が痛い。

「なん、だよ……これ」

 俺がいた教室に顔を突っ込んでいた巨大な犬のような怪物が頭を引っ込めて辺りを見回す。鼻を引くつかせて何かを探しているようだ。

 そしてその鼻先が、俺に方へ向いた。

 ――狙ってるのは……俺?

「あ、ああ……あ」

 言葉が出ない、脚がガクガクする。眉間にしわを寄せて睨んでくる巨大生物の威圧に、自分の中から出てくる恐怖で体が動かない。

 ――殺される!

 そう思った瞬間、けたたましいエンジンの音が聞こえた。

 巨大生物もその音に気づいて辺りを見回す。

 すると、砂ほこりを立てて巨大生物の脚をもと縫うように曲がりくねって、大型の赤いバイクが俺の目の前で止まった。

「伏せて!」

 バイクにまたがっていた人物。ライダースーツの女性が声とともに何かを巨大生物に放り投げた。

 爆発したような強い閃光が発生する。

 寸でのところで反射的に顔を腕で覆って、目くらましから逃れる。

 突然の強い閃光に、巨大生物は後ずさりをして頭を振る。

 ドッドッドッドッ――

 大型バイクのアイドリング音。バイクにまたがっていた女性が胸元に手をいれ、一枚の紙切れを取り出した。

「響晃君ね。先を越されたと思ったケド、さすが因果律に守られてるだけはあるわね。探す手間が省けたわ」

「え?」

 何を言ってるんだこの人?

「早く乗って」

 ライダースーツの女性が予備のヘルメットを放り投げてきて、バイクの後部を指差した。

「私は赤城湊。あなたを回収しに来たの」

「回収?」

「説明は後で、早く乗る!」

 しりもちを付いていた俺に、赤城湊という女性が手を伸ばしてきた。

「逃げるわよ!」

「あ、はい」

 伸ばしてきた手を取り、立ち上がる。

「早く乗って! あなたが狙われているのよ」

「俺が?」

「ああもう! 状況を見なさい! 考えてる余裕なんてないでショ!」

 腕を強く引っ張られ、言われるままバイクに乗る。

「じゃあ飛ばすわよ。しっかりつかまって!」

「え?」

 赤城湊がスルットルをひねり、バイクを反転させる。

「うわ、わっ!」

 急激な加重移動に体がもっていかれそうになり、慌てて彼女にしがみつく。

 と、柔らかい感触がした。

「掴まるならもっと下!」

 俺がしがみついていた手は、俺の掌よりも大きい彼女の胸だった。

「すいません!」

 彼女にしがみつくように腰に手を回す。

「行くわよ!」

 大型バイクのエンジンがうねりを上げ、巨大生物の四足の真ん中を一直線に通り抜けて、ものすごい加速と速さで一気に学校の校門を出た。

 タイヤが悲鳴をあげ車体が斜めに傾き、公道に出て走り抜ける。

 バイクの振動とは別の揺れが襲ってくる。

 振り返れば巨大生物が追いかけてきていた。

 ――追いつかれる!

 バラバラバラバラ――

 ヘリのローターの音。見上げれば、近くにある自衛隊施設の戦闘ヘリが頭上に二機も現れた。

 ――一体何が起こっているんだ。

 戦闘ヘリが巨大生物に向かって銃撃とミサイルを放つ。

 爆発。

 ミサイルが巨大生物に命中し、爆風と熱風が襲ってきた。

 それでもバイクはよろめくどころかむしろさらにスピードを上げた。

 向かっている方角は南。南区の方向だ。

 大声で赤城湊へ聞く。

「どこに行くんですか?」

「砂丘よ。田中島砂丘!」

 おそらく放置して逃げ出したのだろう、運転手のいない停止した車を、バイクが蛇行して避けていく。

 どう考えても法的な規定を超えた速度でバイクが疾走している。

 でもなんで砂丘なんだ?

「なんで砂丘になんか?」

「デインがアナタを待っているのよ」

 デイン? なんだそれ?

「それはいったいなんですか?」

「ちょっと黙ってて! 集中できないから!」

 さらに大型バイクの速度が上がり、体が後ろへもっていかれそうになった。

 振り向くと、遠くで二機の戦闘ヘリが巨大な怪物と奮闘している。

 巨大な犬のような生物。赤城湊。バイク、俺を回収、デインってなんだ?

 分からないことだらけだった。

 

 この街の南区は、馬米川という大きな川を挟んで二つに分かれていた。馬米川より北は国道一号線が有り、町の中心部まで一直線に伸びる一本道。対して馬米川より南の地域は団地や大きな公園があり、やや田舎といった感じだ。

 その川にかかった橋を通る頃には、無茶苦茶だったものが色々と綺麗さっぱりと静まっていた。

 バイクの速度がどんどん緩やかになっていく。

 赤城湊の背中越しに頭を動かして前を見た。すると、自衛隊員がバリケードをはって待ち構えていた。

 その自衛隊員たちの前でバイクが止まった。

「特殊機関ゼーガ所属、特務二尉の赤城湊です。通らせてもらいます」

 自衛隊員が敬礼をして道を明けた。

 特殊機関ゼーガ?

 田中島砂丘のすぐ近くには海浜公園があり、ゆっくりと走るようになったバイクから公園をのぞき見る。すると、赤くて巨大な……戦闘機? のようなものが見えた。

 松の木々に遮られ、ほんの数瞬で鹿見れなかったが、妙な形の赤い戦闘機だった。

 バイクが「田中島砂丘」と刻まれた石彫りの前で止まる。

「連れてきたよ、彼方」

 かなた?

 バイクから降りてみると、田中島砂丘の入り口でウェーブのかかった長い髪の女子が一人、佇んでいた。

「こっからはこの子についていって」

「え?」

「私はちょっと飛んでくるから」

「はい?」

 赤城湊がバイクのスロットルをひねり、去っていった、その方向は先ほど赤い戦闘機らしきものがあった方向だった。

「……響晃」

 彼方と呼ばれた少女が俺の名前を呼んだ。

「来て、こっちへ」

 彼方という女子がきびすを返してた中島砂丘へと入っていった。

 どうしようかと考えたが、今さっきの騒動で頭の整理が付かない。

 言われたとおりに、ついていくしかなかった。